VR:共感力を高める

長い歴史を振り返ると、メディア技術は、ヒトが抽象的な概念(例えば、神やなんとか主義)を共有することを可能にしてきた。印刷や映像で何が起こっただろうか。 仮想現実(VR)は、非連続な変化を起こす可能性があることが分かってきた。


ブレークスルーになるが、暗黒面も

VRによる経験は、脳が「本物に近い」という受け取り方をすることが、様々な実験から分かってきた。結果として、行動が変容し、しかもその効果は長く続く。 2010年代には、スポーツ選手のトレーニングや従業員の研修に活用されるようになった。平行して、技術のコストが急激に下がり、様々な領域での利用が始まった。 注目されるのは、環境破壊や難民といった、文字や映像だけではなかなか伝わらない領域について、難民キャンプに本当に立っているように感じたり、酸性化が進む海底を見ることによって、深い共感を、いつでもどこでも誰でも得る可能性が見えてきたこと。 人類共通の課題を共有するブレークスルーになるかもしれない。

他方、暴力的な行動を模倣する、現実から逃避する、過度の利用が体に影響する、注意力が低下するなどのマイナス面も明らかになってきた。 この技術が、どのように社会に実装されるのだろうか。

裾野を広げて、高い山をつくろう


ビジネス上は、刺激のあるコンテンツが作られ、市場にばら撒かれるだろう。その中で、VRの暗黒面が広く社会に認知されるような事件が、近い未来に起こるかもしれない。VRコンテンツを厳しく統制する社会にするのか、それとも、多数のクリエイターが育ち、その中から、この世界をより良い場所にするような、真にインパクトがあるものが生まれる土壌をつくるのか。

Graphic by Eri Sato